営業マネジャーは「経験学習サイクル」を回せているか

目次

頑張っているのに、営業力が上がらない理由

「みんな、頑張ってはいるんだけどな…。」

月次の営業会議が終わったあと、あなたは資料を閉じながら心の中でつぶやきます。
活動報告の数字だけを見れば、決して悪くありません。訪問件数もオンライン商談の回数も前年より増えています。提案書の提出件数も、フォローコールの実施件数も、部下の営業マネジャーたちはしっかり管理しています。

それでも、部としての受注件数と売上は、ほとんど伸びていない

会議の場で、あなたはこんな質問を投げかけます。

「この1ヶ月で、受注率が上がった要因を一言で言うと何だと思う?」
「直近でうまくいった商談と、うまくいかなかった商談の違いは何だろう?」

マネジャーから返ってくるのは、だいたいこんな答えです。

「とにかく接点を増やしていこうと、訪問件数を増やしています」
「提案件数も増やしているので、これから成果が出てくるはずです」

“頑張っている”という報告はあっても、

  • 一つひとつの商談の目的やゴールが何だったのか
  • そこでメンバーがどんな行動をとり、お客様がどう反応したのか
  • うまくいった/いかなかった具体的な理由は何だったのか

といった話になると、一気にあいまいになります。

「まずは関係構築をと思って…」
「とりあえずニーズをヒアリングしてみようと…」

マネジャー自身がこう答えるので、その配下にいるメンバーも、同じような説明しかできません。
商談が終われば、すぐに次のアポイント。日報には「訪問○件」「提案○件」と数字が並びますが、そこで何が起き、そこから何を学んだのかまでは語られません。

あなたの営業部は、決してサボっているわけではありません。
むしろ、真面目で素直なマネジャー・メンバーが多く、「言われたこと」はきちんとやってくれる組織かもしれません。

それでもここ数年、

  • 担当者によって成果にばらつきがある
  • 属人的に売れる人はいるが、そのやり方が広がらない
  • 商談数は増えても、部全体の営業力が上がっている実感が持てない

この状態から、なかなか抜け出せていないのではないでしょうか。

もし、こうした状況に少しでも心当たりがあるとしたら――
あなたの営業組織には、

「経験から学び、それをチームで活用していく仕組み=経験学習サイクル」

が十分に組み込まれていないのかもしれません。


1. なぜ、頑張っているのにチームの営業力が上がらないのか

多くの営業組織で、次のような声を耳にします。

  • 「活動量は増えているのに、成果がついてこない」
  • 「売れる人と売れない人の差が、むしろ広がっている」
  • 「人は入れ替わるのに、組織としての営業力はあまり変わらない」

現場のマネジャーもメンバーも、決してサボっているわけではありません。
むしろ、日々の商談や社内調整に追われながら、時間をやりくりして動いています。その姿を間近で見ているからこそ、「もっと頑張れ」と簡単には言えない状況だと思います。

ではなぜ、「頑張り」と「営業力の向上」が結びつかないのか
その背景には、いくつかの構造的な要因があります。

1-1. マネジメントの指標が「活動量」に偏りがち

まず一つ目は、マネジメントの指標が「活動量」に偏りやすいことです。

  • 訪問件数
  • オンライン商談数
  • 提案件数
  • フォローコール数

これらは、ダッシュボードにも出しやすく、報告も受けやすい指標です。
その結果、会議ではどうしても「今月は何件やったか」「来月は何件やるか」といった話が中心になりがちです。

もちろん、活動量は重要です。ただし、

  • 「その商談は何のために行ったのか」
  • 「どんなシナリオを描いて臨んだのか」
  • 「実際にどう進み、どこでつまずいたのか」

といった“質”の部分が見えないままでは、どれだけ活動量を増やしても、チームとしての営業力は積み上がっていきません。

1-2. 経験が「個人の頭の中」に留まり、言語化・共有されていない

二つ目は、メンバーの経験が「個人の頭の中」に留まりやすいことです。

  • たまたまうまくいった商談
  • 逆に、かなり時間をかけたのに失注してしまった案件

こうした経験は、本来であればチームにとって貴重な学習素材です。
しかし現実には、日報やSFAには「結果」だけが入力され、

「何を狙って、どのように動き、相手がどう反応したのか」

といったプロセスは、ほとんど言語化されません。

結果として、

  • うまくいった理由も
  • うまくいかなかった理由も

本人の感覚にとどまり、再現性のある形で共有されないままになります。
これが、属人的な営業スタイルから抜け出せない大きな要因です。

1-3. 会議が「報告と詰めの場」になり、学びを深める時間がない

三つ目は、会議の設計です。

多くの営業会議・マネジメント会議では、

  • 数字の進捗報告
  • パイプラインの確認
  • 案件が遅れている理由の説明
  • 「いつまでにどうするのか」という詰め

に時間の大半が使われています。

もちろん、これらは営業部として必要な機能です。
しかし、もし会議の時間がほぼすべて「報告と詰め」で埋まっているとしたら、次のような時間が取れていない可能性があります。

  • うまくいった商談の「成功要因」を分解して言語化する時間
  • うまくいかなかった商談から、次の一手を考える「振り返りの時間」
  • ベテランの経験を、他メンバーが自分の案件に当てはめて考える時間

この「学びの時間」が欠けたままでは、どれだけ会議を重ねても、

“数字の管理”はできても、“営業力の底上げ”にはつながりにくい

のです。

営業部長として、こうした状況をなんとなく感じていながら、
日々の数字対応に追われ、なかなか手をつけられていない――。
もしそうであれば、そこで必要になるのが、

経験学習サイクルを前提にしたマネジメントの仕組み

です。


2. 営業組織に必要なのは「経験学習サイクル」が回るチーム

先ほど見てきたように、

  • 活動量に偏ったマネジメント
  • 経験が個人の頭の中に留まる構造
  • 会議が「報告と詰め」で終わる設計

この3つが揃うと、「頑張っているのに、営業力が積み上がらない組織」になってしまいます。

この状態から抜け出すために、営業組織に必要なのが、

「経験から学び、それを次の活動で試す」サイクルを、チーム全体で回せるようにすること

です。
ここでは、それを「経験学習サイクル」と呼びます。

2-1. 営業組織における「経験学習サイクル」の定義

営業組織における経験学習サイクルを、本記事では次のように定義します。

経験学習サイクルとは
営業活動一つひとつの目的とゴールを明確にし、
メンバーがどのような行動を行うべきかを明確にしたうえで、その行動を実行するための支援を行う。
メンバーの活動の振り返りを支援し、成功要因の言語化を支援する。
さらに、言語化した行動を他の活動に試行する後押しをおこなう、一連のサイクルである。

この定義を、「経験 → 振り返り → 概念化 → 試行」の4ステップに当てはめると、次のように整理できます。

2-2. 経験(Experience)――「設計された経験」をさせる

まずは「経験」です。ここでは単に「場数を踏む」という意味ではなく、
目的とゴール、取るべき行動を設計したうえでの経験と捉えます。

営業マネジャーが支援すべきポイントは、次の3つです。

  1. 営業活動一つひとつの「目的とゴール」を明確にする
    • 「この商談のゴールは何か」
    • 「お客様が会議後にどういう状態なら成功と言えるのか」
      を、マネジャーとメンバーで言葉にします。
  2. メンバーが取るべき「具体的な行動」を明確にする
    • 「誰に対して、どんな質問をするのか」
    • 「どの順番で話を進めるのか」
      といった行動レベルまで落とします。
  3. その行動を実行できるよう、事前準備やロールプレイで支援する
    • 資料の確認や想定問答の整理、ロールプレイなどを通じて、
      「やるべき行動」が実行しやすい状態をつくります。

これら①〜③が、サイクルの**「経験」**にあたります。

2-3. 振り返り(Review)――「何が起きたか」を事実でそろえる

次が「振り返り」です。
ここでは、起きた事実を整理することが目的です。

  1. 活動後の「振り返り」を支援する
    • 「実際に何が起きたのか」
    • 「メンバーはどんな行動を取り、お客様はどう反応したのか」
      を、できるだけ事実ベースで一緒に整理します。

解釈や反省に飛びつく前に、「何があったのか」を並べるイメージです。
これがサイクルの**「振り返り」**にあたります。

2-4. 概念化(Conceptualization)――「次も使える考え方」にする

振り返りで事実がそろったら、その意味づけ・整理を行う段階が「概念化」です。
ここでは、個別の商談から他の案件にも使える“考え方(コンセプト)”を作ることがポイントです。

  1. 成功要因の言語化を支援する
    • 「今回うまくいった一番の理由は何か」
    • 「なぜその行動が効果的だったのか」
      を一緒に考え、
    • 質問の仕方
    • 資料の見せ方
    • 関係者の巻き込み方
    など、行動レベルの言葉に落としていきます。

失注の場合も同様に、

  • 「どのタイミングで何が足りなかったのか」
  • 「どんな情報が取れていなかったのか」

などを整理し、“次も使える学び”としての仮説・原則にしていきます。

これがサイクルの**「概念化」**にあたります。

2-5. 試行(Try)――つくった考え方を、別の場面で意図的に試す

最後が「試行」です。
概念化で得られた学びを、別の場面で意図的に試すフェーズです。

  1. 言語化した行動を、他の活動・他案件への適用を後押しする
    • 「次はどの案件で試してみるか」を具体的に決めます。
    • チームミーティングで共有し、他のメンバーにも使ってもらう場をつくります。

ここまでを1セットとして、

経験 → 振り返り → 概念化 → 試行 → 再び新たな経験へ…

というサイクルを回していく。これが、営業組織における経験学習サイクルです。

2-6. サイクルが回ると、営業組織に起こる変化

この経験学習サイクルがチームとして回り始めると、営業組織には次のような変化が生まれます。

  • 「とりあえず行ってくる営業」から、「狙いを持って臨む営業」に変わる
  • 商談後の会話が、数字ではなく「行動」と「反応」の話になる
  • 成功要因が、チームの共通言語として蓄積される
  • 失注が“学習機会”として扱われるようになる

結果として、

「個人の勘と経験に頼る営業」から、「チームの学習スピードで勝つ営業」へ

と、組織の戦い方が変わっていきます。


3. 経験学習サイクルが営業現場で回らない3つの理由

理想的には、

経験 → 振り返り → 概念化 → 試行

のサイクルが、日々の営業活動のなかで自然に回っている状態が望ましいです。
しかし現実には、多くの営業組織でこのサイクルが途中で止まっています。

なぜ経験学習サイクルが回らないのか。
ここでは、その理由を3つに整理します。

  1. 「経験」が「とりあえずの経験」になっている
  2. 「振り返り・概念化」の時間が設計されていない
  3. 「試行」を後押しする仕組みがない

3-1. 理由①:「経験」が「とりあえずやる経験」になっている

1つ目の理由は、「経験」の質の問題です。

本来の「経験」は、

  • 目的とゴールが決まっている
  • 取るべき行動が明確になっている

うえでの活動であるはずです。

しかし現場では、次のような状態が起きがちです。

  • 「とりあえず訪問件数を増やそう」と、目的があいまいなまま動いている
  • 「まずは関係構築を」と言いながら、具体的に何をするかは決めていない
  • 「ニーズヒアリング」と言いながら、質問の中身までは設計していない

つまり、「経験」フェーズの①〜③(目的・行動・準備)が曖昧なまま
とにかく動いてしまっているのです。

この状態だと、たとえその後に振り返りをしても、

  • 「もっとヒアリングすべきでした」
  • 「訪問数を増やします」

といった抽象的な反省に留まりやすくなります。
そもそもの経験が「何を狙って、どんな行動を試したのか」がはっきりしていないため、後の「振り返り」「概念化」の質も上がりません。

3-2. 理由②:「振り返り・概念化」の時間が設計されていない

2つ目の理由は、時間の設計です。

営業会議や1on1の時間の多くが、

  • 数字の進捗報告
  • パイプラインの確認
  • 案件が遅れている理由の説明
  • 「いつまでにどうするのか」という詰め

に使われている組織は少なくありません。

その結果、サイクルのうち

  • ④:活動後の振り返り(事実の整理)
  • ⑤:成功要因の言語化・整理(概念化)

のための時間が、ほとんど確保されていないのが実態です。

本来であれば、

  • 「どのタイミングで相手の反応が変わったのか」
  • 「どの質問が一番刺さったのか」
  • 「なぜ、その提案が受け入れられなかったのか」

といった話を、マネジャーとメンバーで腰を据えて言語化していく必要があります。

しかし、会議が「報告と詰め」だけで終わってしまうと、

経験学習サイクルの“中盤”である『振り返り・概念化』が、そもそも回る余地がない

のです。

3-3. 理由③:「試行」を後押しする仕組みがなく、学びが一回きりで終わる

3つ目の理由は、「試行」の欠如です。

仮に、個人レベルで振り返り・概念化ができたとしても、
それが次の活動で試されない、あるいは他のメンバーに共有されないままになっているケースが多くあります。

たとえば、

  • ある商談で「こう聞いたらうまくいった」という気づきがあっても、次の案件で意図的に試していない
  • チーム内で、成功要因が共有される場がなく、「あの人はセンスがいい」で終わってしまう
  • せっかくの学びが、個人の頭の中で完結してしまう

といった状況です。

これは、経験学習サイクルの

⑥:言語化した行動を他の活動に試行する後押し

が、マネジメントとして設計されていないことに原因があります。

本来マネジャーは、

  • 「じゃあ、その質問を次はこの案件で試してみようか」
  • 「次の週次で、その話をみんなに共有してみて」

といった形で、試行の場と機会を具体的に指定し、背中を押す役割を担う必要があります。

この「試行」がないと、経験学習サイクルは

経験 → 振り返り → 概念化 → そこで終わり

という、「気づいて終わるサイクル」になってしまいます。

3-4. サイクルは自然には回らない。マネジャーが設計して初めて回る

ここまでの3つの理由を整理すると、

  • 経験の「設計」がない
  • 振り返り・概念化の「時間」がない
  • 試行の「場と後押し」がない

という3つの「ない」が、経験学習サイクルを止めていることが分かります。

重要なのは、

経験学習サイクルは、メンバーの「意識」や「センス」に任せていても、自然には回らない

ということです。

営業部長としては、

  • マネジャーに対して、①〜⑥の支援を「役割」として明確に期待する
  • 組織として、
    経験 → 振り返り → 概念化 → 試行
    のサイクルが回るよう、会議や1on1の設計を見直す

ことが求められます。


4. 営業マネジャーの役割は「経験学習サイクルを回す仕組みづくり」

ここまで見てきた通り、経験学習サイクルは、

経験 → 振り返り → 概念化 → 試行

の4つのステップで構成されています。

重要なのは、このサイクルが

「意識の高い一部のメンバーが、勝手にやってくれるもの」

ではないということです。

営業マネジャーが、日々のマネジメントの中で、

  • 経験をどう設計するか
  • 振り返り・概念化をどう支援するか
  • 試行の場と機会をどうつくるか

を意図的に行ってはじめて、チームとしてサイクルが回り始めます。

営業部長としては、マネジャーに対して、

「数字を管理する人」ではなく、「経験学習サイクルを回す“ファシリテーター”」

としての役割を期待する必要があります。

4-1. 役割の定義を変える:「管理者」から「学習ファシリテーター」へ

多くの営業マネジャーは、日々こんな役割を担っています。

  • 目標と数字の管理
  • パイプラインの確認
  • 社内調整・他部門との橋渡し
  • メンバーの進捗フォロー・案件の詰め

これらはもちろん必要な仕事ですが、これだけに終始してしまうと、マネジャーは

「数字を追いかける係」
「報告を受けて、抜け漏れを指摘する係」

になってしまいます。

ここに、もう一つの役割として、

「チームの経験学習サイクルを回すファシリテーター」

を加えることが必要です。

営業部長としては、マネジャーに対して、

  • メンバーの「経験」を設計する
  • 振り返り・概念化の場で問いを投げる
  • 学びを「試行」につなげる場を用意する

ことを、「やってくれたら嬉しいこと」ではなく、
**「マネジャーとしての正式な役割」**として期待値を置くことが大切です。

4-2. 「経験」フェーズでの役割:目的・ゴール・行動を一緒に設計する

経験学習サイクルの最初のステップは「経験」です。
ここでのマネジャーの役割は、メンバーに対して、

「とりあえず行ってこい」ではなく
「何を狙って、どんな行動を試すのか」を一緒に設計する

ことです。

具体的には、次のような支援が求められます。

  • 目的とゴールの言語化を一緒に行う
    • 「この商談のゴールは何?」
    • 「終わったあと、お客様が社内でどう話してくれていたら成功と言える?」
  • 取るべき行動を行動レベルまで落とし込む
    • 「最初の10分で、どんな質問から入る予定?」
    • 「キーマンには、どんな問いかけをする?」
  • 実行しやすいように準備を支援する
    • ロールプレイで実際に話してもらう
    • 想定質問を一緒に洗い出す

営業部長としては、マネジャーに対して、

「商談前の10分で、目的とゴール、試す行動を必ず確認してから送り出そう」

といった具体的な期待行動を置いておくと、現場に落ちやすくなります。

4-3. 「振り返り・概念化」フェーズでの役割:問いで引き出し、言語化を支援する

2つ目と3つ目のステップは「振り返り」と「概念化」です。
ここでのマネジャーの役割は、

「答えを教える人」ではなく、「問いで考えさせる人」

になることです。

具体的には、次のような支援が求められます。

  • 事実ベースの振り返りをさせる質問
    • 「商談の流れを、最初から順番にざっと教えてもらえる?」
    • 「どのタイミングで、相手の表情や反応が変わった?」
  • 成功要因・失敗要因の概念化を促す質問
    • 「うまくいった一番の理由は何だったと思う?」
    • 「同じような案件で、次に活かせそうなポイントを一言でいうと?」

ここで大事なのは、マネジャー自身が

  • すぐに「こうすべきだったね」と言い切ってしまわないこと
  • 「つまり、○○ってことだよね?」と言語化を一緒に仕上げる立場に徹すること

です。

営業部長としては、マネジャーとの1on1や会議で、

「メンバーに“何を言ったか”ではなく、“どんな問いを投げたか”を教えてほしい」

と聞くようにすると、マネジャーの意識が「指示」から「問い」に徐々にシフトしていきます。

4-4. 「試行」フェーズでの役割:学びを“次に試す場”をセットする

4つ目のステップは「試行」です。
ここでのマネジャーの役割は、メンバーに、

「いい学びだったね」で終わらせない
「どこで試すか」まで決めてしまう

ところまで伴走することです。

たとえば、

  • 1on1や振り返りの最後に、必ず
    • 「今の学びを、次はどの案件で試してみる?」
      を決める。
  • チームミーティングでは、
    • 「最近試してみたことと、その結果」を共有する5分を必ず取る。

といった形で、試行の場・時間を“仕組みとして”埋め込むことが大切です。

営業部長としては、

  • 週次会議のアジェンダに「学びの共有・試行報告」のスロットを固定で入れる
  • マネジャー評価の観点に「チームでの学び・試行の設計」を加える

など、組織側から「試行を後押しする仕組み」を用意してしまうのが効果的です。

4-5. 営業部長として、マネジャーに何を期待するかを明文化する

ここまでをまとめると、営業マネジャーが担うべき役割は、

  1. 経験:商談前に、目的・ゴール・行動を一緒に設計する
  2. 振り返り:商談後に、事実ベースで何が起きたかを一緒に整理する
  3. 概念化:成功要因・失敗要因を言語化し、「次も使える考え方」にする
  4. 試行:その考え方を、他案件・他メンバーで試す場と機会をつくる

という4つに整理できます。

営業部長としては、これを、

「うちの営業マネジャーの役割は、この4つのステップで経験学習サイクルを回すことです」

明文化して伝えることが重要です。


5. メンバーの言語化を支援するための具体的な会話例

経験学習サイクルをチームで回すうえで、営業マネジャーにとって最も重要なスキルは、

「よい問いで、メンバーの言葉を引き出すこと」

です。

ここでは、経験学習サイクルの4ステップ

経験 → 振り返り → 概念化 → 試行

それぞれの場面で使える、具体的な質問例を整理します。
営業部長としては、このままマネジャーへの「問いかけのガイド」として渡していただいて構いません。

5-1. 【経験】商談前:目的・ゴール・行動を言語化させる質問

まずは「経験」の前段、商談に行く前の5〜10分で聞きたい質問です。

■ 目的・ゴールを明確にする質問

  • 「この商談のゴールを一言でいうと、何ですか?」
  • 「終わったあと、お客様が社内でどんな話をしてくれていたら成功と言えますか?」
  • 「今日の商談で、最低限ここまでは進めたいというラインはどこですか?」
  • 「この商談は、案件全体のプロセスの中でどのステップにあたりますか?」

■ 取るべき行動を具体化する質問

  • 「そのゴールを達成するために、今日やるべきことを3つ挙げるとしたら?」
  • 「最初の10分で、どんな質問から入る予定ですか?」
  • 「キーマンには、どのタイミングで何を確認するつもりですか?」
  • 「相手からどんな反応が返ってきたら、“手応えあり”と判断しますか?」

■ 準備・シミュレーションを促す質問

  • 「相手から一番ありそうな反論は何だと思いますか?」
  • 「そのとき、最初にどう答えますか? ちょっと口に出してみましょうか。」
  • 「今日の商談で、あえて試してみたい聞き方・見せ方はありますか?」

5-2. 【振り返り】商談後:事実ベースで「何が起きたか」を整理する質問

次は、商談が終わったあとに行う**振り返り(Review)**の場での質問です。
ここでは、「良かった/ダメだった」の評価より前に、事実をそろえることが目的です。

■ 商談の流れを再現させる質問

  • 「商談の流れを、最初から順番にざっと教えてもらえますか?」
  • 「最初の10分は、どんな話をしていましたか?」
  • 「相手が一番よく話していたのは、どのあたりの話題でしたか?」

■ 相手の反応にフォーカスした質問

  • 「お客様の表情や姿勢が変わった瞬間はありましたか?」
  • 「そのとき、こちらはどんな説明や質問をしていたタイミングでしたか?」
  • 「相手から出てきたキーワードやフレーズで、印象に残っているものはありますか?」

■ 自分の行動にフォーカスした質問

  • 「こちらからの主な提案ポイントは3つ挙げると何でしたか?」
  • 「ヒアリングの中で、聞けたこと/聞けなかったことを分けてみると?」
  • 「あの場面で、他に取り得た選択肢があるとしたら、何がありましたか?」

5-3. 【概念化】成功要因・失敗要因を「一言フレーズ」にする質問

振り返りで事実が揃ったら、次は**概念化(Conceptualization)の段階です。
ここでは、個別の商談から
「次も使える考え方」**を抜き出していきます。

■ 成功要因を抽出する質問

  • 「今回、うまくいった一番の理由は何だったと思いますか?」
  • 「その理由を、**“〜だから”ではなく“〜というやり方”**で表現すると?」
    • 例:「信頼関係があったから」
      → 「先に相手の事情を聞き、こちらの事情は後から話す“順番”」
  • 「もしこの商談のコツを後輩に一言で伝えるとしたら、何と言いますか?」

■ 失敗要因から学びを抽出する質問

  • 「今回うまくいかなかった一番の理由は何だと思いますか?」
  • 「それは、どのタイミングで、何ができていなかったと整理できますか?」
  • 「次に似たような場面があったとき、“やらないこと”を一つ決めるとしたら何ですか?」
  • 「逆に、“次は必ずやること”を一つだけ決めるとしたら?」

■ 「次も使える考え方」にまとめる質問

  • 「今の話を、**“〜な場面では、まず○○する”**というルールにするとどうなりますか?」
  • 「自分用にチェックリストを1つ作るとしたら、どんな項目になりますか?」

ここでのゴールは、

「今回の商談の話」から、「他の商談でも使えるフレーズ・ルール」に変換すること

です。

5-4. 【試行】次の一歩を具体的に決める質問

最後は「試行(Try)」のフェーズです。
概念化でまとめた学びを、次のどこで試すかを具体的に決める質問です。

■ 試す案件・タイミングを決める質問

  • 「今の学びを、次に試せそうな案件はどれですか?」
  • 「その案件の、どのタイミングの会話で使えそうですか?」
  • 「いつまでに、どの場面で試すかを具体的に決めるとすると?

■ 試したあとの再振り返りをセットする質問

  • 「その商談のあと、5分でいいのでまた一緒に振り返りましょうか。」
  • 「試してみた結果を、来週の定例で1分だけ共有してもらえますか?」

ここまで決めておくと、

学び → 試行 → また新しい経験

へと、経験学習サイクルが自然に次の一周へ進んでいきます。

5-5. チームで共有するためのミーティング設計の例

最後に、「個人の学び」をチームの学びに変えるための、簡単なミーティング設計例を一つだけ紹介します。

■ 週次ミーティングの15分を「経験学習タイム」にする

週次の営業ミーティングの中に、次のような15分枠を固定で入れます。

  1. 「今週、試してみたこと&結果共有」(1人1分 × 3名)
  2. 参加者からの質問・コメント(合計5分)
  3. マネジャーからのまとめ
    • 「今日出た話を一言でまとめると、**“〇〇な場面では△△してみる”**ですね」

ポイントは、

  • 数字の報告ではなく、「試したこと・気づいたこと」にフォーカスすること
  • マネジャーが最後に「一言フレーズ」にまとめること

です。

営業部長としては、各マネジャーのミーティングを見ながら、

  • 「学びの共有の時間が、ちゃんと取れているか」
  • 「マネジャーが“問い”と“まとめ”の役割を果たせているか」

を確認していくと、
「メンバーの言語化を支援するマネジャー」の育成にもつながっていきます。


6. 明日からできる一歩:「メンバーの言語化を支援する」と決める

ここまで、

  • なぜ「頑張っているのに営業力が上がらない」のか
  • 営業組織における**経験学習サイクル(経験 → 振り返り → 概念化 → 試行)**とは何か
  • 営業マネジャーが担うべき役割と、具体的な問いかけ

を見てきました。

営業部長として全体像は理解できたとしても、
重要なのは「では、明日から具体的に何を変えればいいのか」という点です。

大きな制度や評価の仕組みをいきなり変えなくても、
まずは会議と1on1での“会話”を変えることから始められます。

6-1. まずは「数字の問い」から「経験学習の問い」を1つだけ増やす

明日からできる一歩として、おすすめしたいのは、

数字・件数に関する問いに加えて、
経験学習サイクルに関する問いを「1つだけ」必ず投げる

と決めることです。

例えば、次のようなイメージです。

  • これまで:
    • 「今月、訪問何件? 提案何件?」
  • 明日から:
    • 「今月、訪問何件? 提案何件?」に 加えて
    • 「直近の商談で、試してみたことと、その結果を1つ教えて」

あるいは、

  • これまで:
    • 「なぜ失注したの?」
  • 明日から:
    • 「なぜ失注したの?」に 加えて
    • 「この案件から学べたことを、一言のフレーズにするとすると?」

こうした小さな問いが、

経験 → 振り返り → 概念化 → 試行

のサイクルを、メンバーの頭の中に少しずつ根づかせるきっかけになります。

6-2. マネジャーに求める「明日からの具体的行動」を1つに絞る

営業部長としては、マネジャーに対してあれもこれも期待したくなりますが、
行動を変えてもらうためには、最初の一歩を1つに絞ることが大切です。

例えば、こんなメッセージの出し方が考えられます。

「まずは、
 “メンバーの言語化を支援する”ことに全力投資してほしいです。
 数字の管理はいったん現状維持で構いません。
 その代わり、
 - 商談前に『今日のゴールは?』を必ず聞く

  • 商談後に『一番の学びは?』を必ず聞く
     この2つだけは、全メンバーに毎回やると決めてください。」

ポイントは、

  • 「全部変えてほしい」ではなく、「この2つだけは必ずやってほしい」と絞って伝えること
  • 評価や期待の軸に、「経験学習サイクルを回すマネジメント」を明確に乗せること

です。

6-3. 明日の会議で話せる一言

最後に、この記事を読んだ営業部長であるあなたが、
明日の会議やマネジャー向けミーティングでそのまま使える一言を用意しておきます。

「うちの営業組織は、
 “どれだけ経験したか”ではなく、“経験からどれだけ学べたか”で勝ちたいと思っています。
 そのために、
 みんなには “メンバーの言語化を支援するマネジャー” になってほしい。
 まずは、
 - 商談前に『今日のゴールは?』
 - 商談後に『一番の学びは?』
 この2つの問いを、全メンバーに必ず聞くことから始めてください。」

この一言を、ぜひ次のマネジャーミーティングの冒頭で伝えてみてください。

その瞬間から、あなたの営業組織の経験学習サイクルは、
ゆっくりと、しかし確実に回り始めます。


貴社の営業組織でも同じような課題を感じている場合は、現場の実態に合わせた「営業組織改革」や「営業人材育成」の具体的なアプローチをご提案しています。

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