今日は、営業現場で頻繁に発生する重要な課題についてお話しします。
様々な業界の営業組織のコンサルティングに携わってきた中で、
最も多く見てきた課題の一つです。
よくある商談シーン
先日、製造業A社の営業部長から相談を受けました。
「うちの営業メンバーは一生懸命準備をして商談に臨んでいるんです。でも、なぜかお客様の反応が良くない。もちろん、全員が経験豊富な営業マンなんですが…」
研修の商談ロールプレイででは、こんな状況が見られました:
営業担当者役:「本日は、弊社の新製品についてご説明させていただきます。」(パワーポイントを開く)
顧客役:「あ、はい…」(少し戸惑った表情)
15分間の商談。
営業担当者役は丁寧に商品説明をしましたが、
顧客役からの質問はほとんどありません。
最後は「検討させていただきます」という言葉で終わりました。
一見、普通の商談に見えますよね。
しかし、ここには重大な問題が潜んでいます。
なぜ商談は期待外れに終わるのか?
実は、このケースで最も大きな問題は
「顧客の期待」と「営業の思惑」の間に大きなギャップが存在していたことです。
【顧客側の期待】
商談後、顧客役に個別にヒアリングしたところ、こんな声が聞かれました:
・「実は、同業他社の生産性向上事例について知りたかった」
・「自社が抱える具体的な課題への助言を期待していた」
・「業界の最新トレンドについて情報交換したかった」
【営業側の思惑】
一方、営業担当者役の考えは:
・「新製品の機能をしっかり説明しないと」
・「価格競争力をアピールしたい」
・「早めに提案に持ち込みたい」
このズレが、商談を「期待外れ」にしてしまう最大の要因なのです。
なぜこのようなズレが生じるのか?
この問題の根本には、以下の3つの誤解があります:
1. 「商談=提案の場」という思い込み
多くの営業担当者は、商談を「自社の製品やサービスを提案する場」と捉えています。
しかし、顧客にとっての商談は「自社の課題解決につながる情報を得る場」なのです。
2. 「説明すれば伝わる」という過信
製品知識が豊富な営業担当者ほど、「詳しく説明すれば価値が伝わる」と考えがちです。
しかし、顧客が求めているのは「自社の文脈に沿った情報」です。
3. 「早く提案したい」という焦り
売上目標やノルマのプレッシャーから、できるだけ早く提案に持ち込もうとする心理が働きます。
これが、顧客のペースを無視した商談を生む原因となっています。
具体的な改善ステップ
では、どうすれば「期待」と「思惑」のズレを解消できるのでしょうか?
1. アポイント取得時の工夫
【具体的なアクション】
・「どのような情報に関心をお持ちでしょうか?」
・「特に知りたい事例などございますか?」
・「現在の課題感について、差し支えない範囲で教えていただけますか?」
【実践例】
「承知しました。次回の面談では、●●業界での生産性向上事例を中心にお話しさせていただきます。
あわせて、御社の課題についても詳しくお伺いできればと思います」
2. 商談冒頭での確認
【具体的なアクション】
・アジェンダの提示と合意
・時間配分の確認
・優先して話したいポイントの確認
【実践例】
「本日は、まず業界の成功事例を15分程度ご紹介させていただき、その後、御社の課題についてお伺いする時間を設けたいと思います。いかがでしょうか?」
3. 価値提供を優先した商談構成
【具体的なアクション】
・業界トレンドや成功事例の紹介
・類似企業の課題解決事例の共有
・顧客の状況に応じた助言
【実践例】
「御社と同じような課題を抱えていた●●社では、このような取り組みで解決されました」
成功のためのチェックリスト
□ アポ前の確認
・顧客の期待や関心事項を把握したか
・必要な情報や資料を準備したか
・想定される質問への回答準備はできているか
□ 商談冒頭の確認
・アジェンダの合意はとれたか
・時間配分は適切か
・優先順位は明確か
□ 商談中の意識ポイント
・一方的な説明になっていないか
・顧客の反応を確認しているか
・質問や対話の機会を設けているか
最後に:明日からできる具体的なアクション
1. アポ取得時の会話を見直す
「製品の説明に伺います」ではなく、「業界の最新動向や成功事例についてお話しさせていただきたい」という切り口に変更する。
2. 商談の準備内容を変える
製品資料だけでなく、業界動向や成功事例、想定される課題への解決アプローチをまとめておく。
3. 商談スタイルを進化させる
一方的なプレゼンテーションではなく、対話型の情報交換を心がける。
この改善により、多くの企業で以下のような変化が見られています:
・顧客との会話が活性化
・商談の継続率向上
・提案機会の増加
・成約率の改善
重要なのは、「売り手の論理」ではなく「買い手の期待」に寄り添うこと。この意識改革が、商談の質を大きく変えるのです。
皆さんの組織では、どのような商談の課題を抱えていますか?
まずは現状の商談プロセスを見直し、
顧客の期待に応える商談スタイルを確立することから始めてみてはいかがでしょうか。