「わからなかったら聞いて」の呪縛を解く、小さな合意形成の話
「……えっ、まだ手をつけていなかったの?」
「いや、あの……ここがちょっと分からなくて……」
「(心の声:じゃあ、なんで今の今まで黙ってたの!?)」
会議室の重い空気。 部下の申し訳なさそうな表情と、行き場のないため息。
コンサルタントとして現場に入らせていただくと、こういった場面に出会うことが本当に多いんです。
締め切り直前になって蓋を開けてみれば、全然進んでいなかった。
あるいは、まったく違う方向に全力疾走してしまっていた。
その事実を知った瞬間の、あのふっと力が抜けるような感覚。
管理職をされている方なら、一度や二度ではない経験かもしれません。
「わからなかったら、すぐ聞きに来てね」
「いつでも相談していいから」
そう伝えているはずなのに、なぜ彼らは来てくれないのでしょうか。
今日は、そんな現場の「沈黙」と、そこにある「ボタンの掛け違い」について、
少しご一緒に考えてみたいと思います。
現場で感じる、若手の“リアルな体温”
私自身、多くの若手社員の方とお話しする機会がありますが、
彼らと膝を突き合わせて話していると、ある共通点に気づかされます。
それは、決して彼らが「サボっているわけではない」ということです。
むしろ逆なんですよね。
「自分でなんとかしなきゃ」
という責任感が、人一倍強かったりするんです。
パソコンの画面を前に、彼らは必死に考えています。
でも、手は止まっている。
彼らの心の中を少し覗かせてもらうと、こんな声が聞こえてきそうです。
「こんな初歩的なことを聞いたら、失望されるんじゃないか」
「自分で調べればわかるはずなのに、聞くのは甘えだ」
「忙しそうな課長の手を止めるわけにはいかない」
責任感と、恐怖心。
そして、
「できる人だと思われたい」
という等身大のプライド。
それらが複雑に絡み合って、結果として「フリーズ」してしまっている。
そんな状態なんじゃないかな、と思うんです。
特に、今の若い世代の方々は、失敗することに対してとても敏感な傾向があるように感じます。
正解のない問いに対して、「間違ってはいけない」と足がすくんでしまう。
だからこそ、時間が過ぎれば過ぎるほど、
「今さら聞けない」
という壁が高くなり、どうしようもなくなった時にはもう手遅れ……という悲劇が起きてしまうのかもしれません。
「意識を変えろ」では解決しないこと
こうした事態が起きたとき、私たちはついこう思ってしまいがちです。
「もっと当事者意識を持ってほしい」
「報告・連絡・相談は社会人の基本だろう」
その気持ち、本当によくわかります。
でも、現場で支援をさせていただく中で感じるのは、
「意識を変えろ」という精神論だけでは、
残念ながらあまり効果が見込めない、ということなんです。
なぜなら、彼ら自身も「報告しなきゃいけない」とは分かっているからです。
分かっているけれど、動けない。
そこにアプローチする必要があるんですよね。
必要なのは、彼らの性格を変えることでも、意識改革を叫ぶことでもなく、
もっとシンプルな「具体的なアクションの設計」ではないでしょうか。
「完了」ではなく「中間地点」を握るという提案
私が現場でよくご提案させていただき、実際に空気が変わったなと感じる方法があります。
それは、仕事の「完了基準」ではなく、
「中間地点」を最初に握ってしまう、というやり方です。
通常、仕事を依頼するときは「この資料、金曜日までに仕上げておいて」と伝えますよね。
これを、ほんの少し変えてみるんです。
「まずは着手してみて、30分経ったら進捗が1割でもいいから、一度見せてくれない?」
あるいは、
「構成案ができたら、中身を書く前に5分だけすり合わせようか」
たったこれだけのことなんですが、これが意外なほど効くんです。
ポイントは、「完成度を求めない」ということを、上司である皆さんから先に提示してあげること。
「1割でいい」
「メモ書きでいい」
「30分経ったら強制的に見せる」
というルールにすることで、部下の方にとっては「相談」のハードルがぐっと下がります。
「完成品を持ってこい」と言われると、完璧主義な彼らは100点を目指して抱え込みます。
でも、「30分後の状態を見せて」と言われれば、それは「報告」ではなく、
単なる「作業プロセスの一部」になるんですよね。
スピード感は「合意形成の頻度」で決まる
実際にこの方法を取り入れたある管理職の方は、こうおっしゃっていました。
「最初は『いちいち確認するのも手間だな』と思っていたんです。
でも、やってみたら逆でした。
早い段階で『あ、方向性はそっちじゃないよ』と修正できるから、
手戻りがなくなって、結果的にチーム全体のスピードが上がったんです」
そうなんですよね。 仕事のスピードや質というのは、本人の資質だけで決まるものではありません。
実は、「上司との合意形成の頻度」で決まる側面が大きいのではないか。
最近、私はそんなふうに考えるようになりました。
部下が一人で悩み、迷走している時間は、組織にとってもご本人にとっても、とても苦しい時間です。
その時間を、「上司と一緒に方向性を確認する時間」に変えてあげる。
それは決して過保護なことではなく、部下が安心して走れる「レール」を敷いてあげるような、
そんなイメージに近いのかもしれません。
「相談」ではなく「確認」へ
「なんで相談してくれないんだ」と嘆く前に。 部下が来やすい仕組みを、こちらから作ってみる。
それは、「相談においで」とドアを開けて待つことではなく、
「確認しに行くね」とこちらから声をかけたり、
「このタイミングで見せてね」
とあらかじめ約束をしておくことだと思います。
「相談」という言葉には、
どこか「自分の力不足を認めて、助けを求める」ようなニュアンスが含まれている気がしませんか?
だから、真面目な人ほど、それができない。
でも、「30分後の確認」なら、それは業務フローの一部です。
感情のハードルを越えさせてあげるのもまた、私たち上司の大切な役割なのかもしれません。
皆さんのチームでは、部下が「ごめんなさい」と報告に来るのではなく、
「こんな感じです」と途中経過を見せに来られるような仕組み、
どう作っていらっしゃいますか?
もし、「最近、部下が抱え込みがちだな」と感じることがあれば、
次の指示出しの際に、「まずは30分やってみたら、一度見せてね」と、
魔法の言葉を添えてみてはいかがでしょうか。
その一言が、彼らのフリーズした心を溶かし、
チーム全体の空気を少し柔らかくしてくれるかもしれません。
日々のマネジメント、本当にお疲れ様です。
「なんで?」と言いたくなる瞬間、ありますよね。
でも、そうやって部下の沈黙に心を痛めていること自体が、
あなたが彼らの成長を願っている証拠なのだと思います。
まずは次の1回だけで構いません。
「できたら持ってきて」を、
「30分経ったら見せて」に変えてみませんか?
その小さな変化が、あなたと部下の間の信頼のパイプを、
少し太くしてくれるはずです。応援しています。
