「せっかく綿密なプランを立てたのに、チームメンバーが思うように動いてくれない…」 こんな経験はありませんか?
実は、アカウントプランの成功の鍵は「誰が作るか」 ではなく「どうやって作るか」にあるのです。
多くの営業組織で見られる光景があります。 優秀なマネージャーが夜遅くまで残業して、
完璧なアカウントプランを作成する。
データ分析も競合調査も抜かりなく、 戦略的思考も盛り込まれた素晴らしいプランです。
しかし、いざ実行段階になると、チームメンバーの反応が今ひとつ。
「なんとなく他人事」という雰囲気が漂い、 期待したほどの成果が上がらない。
この問題の根本原因は何でしょうか?
そして、どうすればチーム全体が一丸となって目標達成に向かうことができるのでしょうか?
完璧なプランが失敗する理由
先月、ある会社の営業部長から興味深い相談を受けました。
その会社は従業員数300名のIT企業で、
主にエンタープライズ向けのソフトウェアソリューションを提供しています。
営業部長の田中さん(仮名)は、
10年以上の営業経験を持つベテランで、 戦略的思考力も高く評価されていました。
田中さんの悩みはこうです。
「うちのマネージャーの佐藤さんは本当に優秀で、いつも緻密なアカウントプランを作ってくれる。
でも、なぜかチーム全体の士気が上がらないんです。メンバーは言われたことはやりますが、
自発的な動きが少なくて…」
実際に佐藤さんが作成したプランを見せていただくと、確かに素晴らしい内容でした。
顧客の組織構造から意思決定プロセス、競合他社の動向まで詳細に分析されており、
アプローチ戦略も論理的で説得力がありました。
しかし、そこには一つの大きな問題がありました。
それは、このプランが完全に「佐藤さん一人の作品」だったということです。
チームメンバーの山田さんは、こう話していました。
「佐藤さんのプランは確かにすごいんです。
でも、正直なところ、自分がそのプランにどう貢献できるのかよくわからない。
言われたことをやるだけって感じで、やりがいを感じにくいんです」
これが、一人で作るアカウントプランの根本的な問題点なのです。
どんなに完璧なプランでも、実行するのは人間です。
そして人間は、自分が関与していないものに対しては、 どうしても「他人事」として捉えてしまう傾向があります。
心理学的に言えば、これは「オーナーシップ効果」の欠如です。
人は自分が参加して作り上げたものに対しては強い愛着と責任感を持ちますが、
完成されたものを渡されただけでは、その感情は生まれにくいのです。
また、一人で作るプランには必然的に「視点の偏り」が生じます。
どんなに優秀な人でも、一人の経験と知識には限界があります。
佐藤さんのプランも確かに論理的でしたが、 現場の営業担当者ならではの気づきや、
過去の類似案件での経験値などは反映されていませんでした。
チーム全員参加型プランニングの威力
そこで田中さんのチームに提案したのが、 「チーム全員でプランを作り込む」というアプローチでした。
具体的には、週1回、90分間のプランニングミーティングを開始することにしました。
このミーティングでは、佐藤さんがファシリテーターとなり、
チーム全員でアカウントプランを練り上げていくのです。
第1回目のミーティングでは、まず顧客の基本情報を全員で共有しました。
佐藤さんが事前に調べた情報をベースに、 各メンバーが追加で知っている情報や疑問点を出し合いました。
すると、早速面白い発見がありました。
新人の鈴木さんが
「実は先月、この会社の別部署の方とセミナーでお会いしたことがあるんです」
と発言したのです。
佐藤さんは知らなかった情報でした。
鈴木さんによると、その部署では現在のシステムに不満を持っており、
新しいソリューションを探しているとのことでした。
これまでのアプローチでは、 佐藤さんが特定していた窓口部署にのみ焦点を当てていましたが、
鈴木さんの情報により、複数部署への横断的なアプローチの可能性が見えてきました。
第2回目のミーティングでは、競合分析を行いました。 今度は経験豊富な山田さんが力を発揮しました。
「A社の営業担当者と以前一緒に働いたことがあるんですが、彼らの提案スタイルは…」
と、競合他社の内部事情に詳しい情報を提供してくれました。
このように、各メンバーがそれぞれの強みや経験を活かして 貢献できる場面が次々と生まれました。
重要なのは、メンバーたちが単なる「情報提供者」ではなく、
「プランの共同制作者」として参加していることでした。
第3回目以降のミーティングでは、より具体的な戦略立案に入りました。
アプローチのタイミング、提案内容の優先順位、役割分担など、 実行に直結する内容を全員で議論しました。
この過程で、驚くべき変化が起こりました。 メンバーたちから
「この顧客にはこんなアプローチもありそうです」
「私の過去の経験では、こういう切り口が効果的でした」
といった積極的な提案が次々と出てきたのです。
特に印象的だったのは、中堅の田辺さんの発言でした。
「実は2年前に似たような案件があって、
その時は最初のアプローチで失敗したんです。
でも、その経験を活かせば、今回はもっと良いやり方ができそうです」
これまで田辺さんは、過去の失敗を恥ずかしがって詳しく話したがりませんでした。
しかし、チーム全体でプランを作るという共通目標があることで、そ の貴重な経験を共有してくれたのです。
巻き込み効果が生む3つの変化
このプランニングプロセスを3ヶ月間継続した結果、 チームには劇的な変化が起こりました。
目標達成率は大幅に向上し、メンバーの満足度調査でも大幅な改善が見られました。
この成功の背景には、「巻き込み効果」による3つの重要な変化がありました。
第一の変化:責任感の醸成
最も顕著だったのは、メンバーの責任感の変化です。
従来は「佐藤さんのプラン」だったものが、
今では「私たちのプラン」になりました。
山田さんは後日こう振り返っています。
「自分が意見を言って、それがプランに反映されると、
もうそのプランを成功させるのは自分の責任だって感じるんです」
心理学でいう「認知的不協和」の原理が働いています。
自分が参加して作ったプランが失敗することは、 自分の判断力を否定することになるため、
無意識のうちに成功に向けて行動するモチベーションが高まるのです。
実際、プランニングミーティング開始後、メンバーの自主的な行動が格段に増えました。
顧客に関する追加情報を積極的に収集したり、
提案のブラッシュアップを自発的に行ったりする場面が多く見られるようになりました。
第二の変化:視点の多様化
一人では見えない盲点の発見も、大きな成果の一つでした。
佐藤さんは技術的な知識に長けていましたが、
顧客の業界特有の商慣習については詳しくありませんでした。
一方、山田さんはその業界での営業経験が豊富で、
「この業界では4月の予算決定前にアプローチするのがセオリー」
といった実践的な知識を持っていました。
また、年代の異なるメンバーからは、それぞれ異なる視点での提案が出ました。
若手の鈴木さんからは
「SNSでの情報発信も検討してみては」
といったデジタルマーケティング的な発想が、
ベテランの田辺さんからは
「この役職の方には、 まず信頼関係構築から」
という人間関係重視のアプローチ提案が出ました。
これらの多様な視点が組み合わさることで、
一人では思いつかないような創造的なソリューションが生まれました。
第三の変化:モチベーション向上
実行段階でのモチベーション向上も顕著でした。
従来は「指示されたタスク」として取り組んでいた活動が、
「自分たちが決めた戦略」として捉えられるようになったからです。
特に印象的だったのは、困難な局面での粘り強さです。
ある重要な提案で一度断られた時、
以前なら「やはりダメでした」で終わっていたかもしれません。
しかし今回は、メンバー全員で
「なぜダメだったのか」「次はどうアプローチするか」
を真剣に議論し、新たな戦略を立て直しました。
結果的に、その顧客からは後日「再提案の内容が素晴らしかった」
という評価をいただき、 最終的に受注につながりました。
今すぐ始められる「参加型プランニング」実践法
ここまでの事例を踏まえ、 明日からでも実践できる「参加型プランニング」の具体的な方法をお伝えします。
効果的なミーティング運営のコツ
まず重要なのは、ミーティングの目的と進め方を明確にすることです。
ただの情報共有会になってしまっては意味がありません。
「全員でプランを作る」という目的を最初に明示し、各回のゴールを設定しましょう。
ある会社では、
第1回を「顧客理解の深化」、
第2回を「競合分析と差別化要素の特定」、
第3回を「アプローチ戦略の立案」
というように、段階的に進めています。
このように構造化することで、議論が散漫になることを防げます。
ファシリテーションのポイントとしては、 全員が発言できる雰囲気作りが重要です。
経験の浅いメンバーも含めて、必ず一人一回は意見を言ってもらうようにしましょう。
「○○さんはどう思いますか?」 と積極的に振ることで、参加意識を高められます。
また、批判的な意見も歓迎する姿勢を示すことが大切です。
「それは違う」ではなく「面白い視点ですね。他の見方もありそうですが…」
という言い方で、建設的な議論を促進しましょう。
メンバーの役割分担と責任範囲の明確化
プランニングプロセスでは、各メンバーに明確な役割を与えることが重要です。
ただし、その役割は固定的なものではなく、各自の強みや興味に応じて柔軟に設定すべきです。
例えば、業界知識が豊富なメンバーには競合分析を、
コミュニケーション能力の高いメンバーには顧客インタビューを 担当してもらうといった具合です。
重要なのは、単なる「作業の分担」ではなく、 「専門性を活かした貢献」として位置づけることです。
ある会社では、
「業界エキスパート」「テクニカルアドバイザー」「カスタマーインサイト担当」
といった役職名を設けて、メンバーのモチベーションを高めています。
名称は何でも構いませんが、各自が「この分野では自分が責任を持つ」
という意識を持てることが重要です。
また、情報収集や分析の期限も明確にしましょう。
「次回までに競合他社のA社について調べてきてください」
といった具体的な指示があることで、メンバーも取り組みやすくなります。
継続するためのポイントと注意点
参加型プランニングを継続するためには、いくつかの注意点があります。
まず、時間管理です。
議論が白熱するのは良いことですが、 時間が長くなりすぎると参加者の負担になります。
90分を目安に、必要に応じて回数を増やす方が効果的です。
また、成果の可視化も重要です。
各回のミーティング後には、「今日決まったこと」「次回までのアクション」 を文書化して共有しましょう。 プロセスの進捗が見えることで、メンバーの達成感と継続意欲を維持できます。
さらに、成功体験の共有も欠かせません。 プランの実行過程で小さな成果が出たら、それを全員で祝うことが大切です。
「先週の山田さんのアイデアが功を奏しました」
といった具合に、個人の貢献を具体的に認めることで、 次回への参加意欲を高められます。
一方で、注意すべき点もあります。
参加型プランニングは時間と労力がかかるため、 すべての案件に適用する必要はありません。重要度や複雑さに応じて、 使い分けることが重要です。
また、チームメンバーのスキルレベルに大きな差がある場合は、 事前の情報共有や勉強会を行うなど、全員が議論に参加できる環境を整える必要があります。
まとめ:一人の知恵から、チームの知恵へ
アカウントプランの成功は、プランの内容だけでなく、 その作成プロセスに大きく左右されます。
どんなに完璧なプランでも、 実行するメンバーが「他人事」として捉えている限り、 期待した成果は得られません。
一方で、チーム全員が参加してプランを作り上げることで、 以下の効果が期待できます。
メンバーの当事者意識が格段に向上し、 自発的な行動が増加します。
多様な視点と経験が組み合わさることで、 一人では気づけない盲点の発見や創造的なソリューションが生まれます。
そして実行段階でのモチベーションが高まり、 困難な状況でも粘り強く取り組む姿勢が生まれます。
参加型プランニングは、決して新しい概念ではありません。
しかし、多くの組織で十分に活用されていないのも事実です。 「時間がかかる」「効率が悪い」といった理由で避けられがちですが、 長期的に見れば、その投資対効果は計り知れません。
まずは一つの重要案件から始めてみてください。 週1回、90分間のプランニングミーティングを設定し、 チーム全員でプランを作り上げるプロセスを体験してみてください。
メンバーの表情の変化、発言の積極性、 そして最終的な成果の違いを実感できるはずです。
優秀な個人の力に依存する組織から、チーム全体の知恵を結集できる組織へ。
その第一歩は、アカウントプランの作り方を変えることから始まります。 今日からでも実践できる小さな変化が、あなたのチームの大きな成長につながることでしょう。
一人の知恵には限界がありますが、チームの知恵には無限の可能性があります。 その可能性を引き出すのは、リーダーであるあなたの決断と行動にかかっています。