1. 配属から半年、「営業じゃない道はないですか」と言い出した新人
4月の配属面談のとき、彼は真っ直ぐな目でこう言っていました。
「営業は不安ですけど、せっかく配属してもらったので、まずは全力でやってみます」
それから半年。
10月の1on1で、同じ新人の佐藤さん(仮名)は、椅子に浅く腰かけたまま、視線を合わせようとしません。
「正直に言うと……営業は、ちょっと違うなって感じていて」
「マーケや企画のほうが、自分には向いているんじゃないかと思うんです」
一瞬、部屋の空気が止まります。
あなたは営業部長として、表情を崩さないようにしながらも、心の中ではこうつぶやいています。
(またか……。配属から半年くらいで、同じ話を何度も聞いている気がする)
こちらから「どこがきつい?」と聞いてみると、彼は言葉を選びながら続けます。
「テレアポで断られ続けるのがつらいですし……」
「お客さまと話していても、自分が本当に価値を出せているのか、よくわからなくて」
「それに、営業で身につくスキルが、将来どこまで通用するのかも不安で……」
最後に出てきた一言は、なかなか重いものです。
「もし異動が難しいなら……転職も含めて考えないといけないのかな、と」
あなたは、すぐに返事をせず、数秒だけ黙って考えます。
引き止めたい気持ちはある。
しかし、根性論で説得しても、かえって反発を生むことは、これまでの経験からよく知っています。
- 「営業はどこに行っても通用する力がつくんだぞ」と言っても、いまいち伝わらない
- 「3年はやってみろ」と言えば言うほど、顔が曇っていく
- 無理やり励ませば、その場は乗り切れても、数週間後にはまた同じ悩みがぶり返す
心の中では、こんな問いがぐるぐる回っています。
「どう伝えれば、彼は“営業だから嫌だ”ではなく、“営業だからこそ伸びる”と感じてくれるのか?」
「そもそも、営業部長である自分自身が、“営業の価値”をちゃんと言語化できているだろうか?」
この記事では、こうした状況に悩む営業部長・営業マネジャーの方に向けて、
- なぜ新人は営業をここまで嫌がるのか
- それでも営業で成果を出せることが、ビジネスパーソンとしての成長の近道になる理由
- そして、「営業は嫌だ」を「営業で力をつけたい」に変える具体的な関わり方
を、順番に整理していきます。
2. なぜ新人はここまで営業を嫌がるのか?背景を整理する
営業を嫌がる新人に向き合っていると、つい
- 「最近の若手は打たれ弱いな…」
- 「楽して成果だけ欲しがっているのでは?」
と感じてしまう瞬間があるかもしれません。
実際、彼らの本音の中には、
- できれば泥臭いことはあまりやりたくない
- もっと頭を使う、スマートな仕事がしたい
- 正直、テレアポや飛び込みのために入社したわけではない
という感覚が、少なからずあります。
ただ誤解してはいけないのは、「サボりたい」「ラクして給料だけ欲しい」だけではないということです。
- どうせ頑張るなら、ちゃんとリターンのあることに時間を使いたい
- 将来のキャリアに直結しそうなスキルに集中したい
- 「自分はこんなことをしたいんじゃない」というズレを、早めに修正したい
そんな、ある意味では「コスパよく成長したい」という思いが背景にあります。
だからこそ、
「泥臭いことばかりやらされている」
「この苦労が、将来の自分にどう返ってくるのか見えない」
と感じた瞬間に、
「営業は自分のやりたいことではない」「もっと違う仕事をしたい」
という気持ちが、一気に表に出てきます。
ここでは、その裏側にある背景を3つに整理してみます。
2-1. 学生時代から刷り込まれている「営業=きつい・古い・泥臭い」のイメージ
まず大きいのは、社会に出る前から出来上がっている営業のイメージです。
- 就活サイトやSNSで流れてくる「営業の失敗談」
- 飲み会の席で先輩社会人から聞く「ノルマがきつかった話」
- ドラマや漫画で描かれる、汗だくで頭を下げ続ける営業像
こうした断片的な情報が積み重なり、彼らの頭の中では、
「営業=数字を追い立てられるつらい仕事」
「ひたすら電話をかけて断られる“メンタル勝負”の世界」
という、かなり一方的なイメージが出来上がっています。
入社直後は、「配属されたからには頑張ろう」と前向きにスタートします。
しかし半年ほど経つと、実際の経験がこのイメージを裏付ける形で上書きされていきます。
- テレアポで何十件も断られる
- 見積提案が通らず、受注になかなかつながらない
- 社内からも「今月どうするの?」と数字の詰めだけが飛んでくる
こうした体験が増えるほど、
「やっぱり営業はきついだけの仕事なんじゃないか」
という、もともとの印象が強化されてしまいます。
2-2. 「マーケ・企画の方が価値がありそう」という時代のキャリア観
もう一つの背景は、キャリア観の変化です。
今の新人は、学生時代から
- マーケティング
- プロダクトマネジメント
- 事業企画
といったキーワードに多く触れています。
YouTubeやSNS、ビジネス系メディアなどでも、これらの職種が「かっこいい仕事」として語られやすい環境があります。
その結果、頭の中では無意識にこんな序列ができがちです。
企画・マーケ > 開発・クリエイティブ > 営業
営業部長から見れば、
「いやいや、実際は営業がいちばんビジネスを理解する仕事だよ」
と言いたくなるかもしれません。
しかし新人からすると、
- マーケ=戦略的・デジタル・スマート
- 営業=アナログ・泥臭い・属人的
というイメージの差が大きく、
「自分はマーケや企画側に回るべき人間だ」
と感じてしまいやすいのです。
そんな中で半年ほど営業を経験し、成果も出し切れないままでいると、
「やっぱり自分の適性は営業ではなく、企画やマーケ寄りなんじゃないか」
と考え始めるのは、ある意味では自然な流れとも言えます。
2-3. 会社として「営業の意味」と「キャリアとのつながり」を説明しきれていない
そして、もう一つ見逃せないのが、会社・営業組織側の説明不足です。
多くの現場で、オンボーディング時に伝えられるのは、
- 担当エリア・担当顧客の説明
- 目標数字とKPI(訪問件数・提案件数など)
- プロダクトのスペックや競合比較
といった、“何をするか”の情報が中心になりがちです。
一方で、新人が本当に知りたいのは、
- なぜ自分は今、営業を任されているのか
- 営業で身につく力が、将来どんなキャリアにどうつながるのか
- 「うちの会社における営業」という仕事の意味・役割は何か
といった、“なぜやるのか・やる意味は何か”の部分です。
ここが言語化されないまま、目標数字だけが先に走り出してしまうと、半年が経った頃にはこうなります。
「とりあえず目標を追ってはいるけれど、自分が何のために頑張っているのか分からない」
「この経験が、自分の将来にどうつながるのかイメージできない」
この「将来につながるイメージの欠如」が、
「営業は嫌だな」「他の職種に行きたいな」という気持ちを加速させてしまいます。
2-4. 「きついから嫌」ではなく「意味が見えないから嫌」になっている
ここまでを整理すると、今の新人が営業を嫌がるのは、
- 営業に対するネガティブな先入観
- 時代背景としてのキャリア観の変化
- 会社・上司側の“意味づけの言語化不足”
が重なった結果として、
「きついけれど、そのきつさに見合うだけの成長実感が持てない」
「頑張っているのに、将来への手応えが感じられない」
という状態になっているからだと考えられます。
つまり、彼らは単に「楽をしたいから営業を避けている」わけではないのです。
むしろ、将来への不安が強いからこそ、
「営業以外の道の方が、自分の成長につながるのではないか」
と考えてしまうのです。
2-5. 本音としては「楽して成果を出したい」気持ちもある
もう少し踏み込むと、多くの新人の心の奥には、
「できれば楽をして成果を出したい」という本音も確かにあります。
- 電話を何十件もかけ続けるより、デジタルマーケで自動的にリードを獲得したい
- 顧客に断られ続けるより、社内で企画を練っている方が“自分らしい”と感じる
- 汗をかいて頭を下げるより、資料や企画書で勝負したい
こうした感覚は、上司世代から見ると「甘え」のように見えるかもしれません。
しかし、ここを一刀両断してしまうと、対話の糸口が途切れてしまいます。
営業部長として大事なのは、この本音を否定せずにいったん受け止めたうえで、
- 泥臭い活動のどこに「仮説検証」「データ分析」「改善」の要素があるのか
- 営業プロセスの中にも、実は「頭を使う・設計する」仕事が多いこと
- 営業で鍛えた感覚が、のちのマーケや企画の仕事でどれだけ武器になるか
を丁寧に結びつけて見せることです。
「今やっているテレアポや訪問は、単なる数打ちではなく、
“自分で仮説を立てて検証する”トレーニングなんだ」「将来もしマーケや企画に行きたいなら、
“現場のお客さまの感覚”を体で知っていることが、ものすごく差になる」
こうしたメッセージを伝えられると、新人の中で
- 「泥臭いこと」=意味のない苦労
から
- 「泥臭いこと」=将来の武器をつくるための投資
へと、少しずつ解釈が変わっていきます。
3. ビジネスパーソンとして伸びる新人ほど、実は営業で成果を出している
第2章で、新人が営業を嫌がる背景を整理しました。
ここからは視点を変えて、
「それでも、ビジネスパーソンとして成長するいちばんの近道は、営業で成果を出せるようになること」
というテーマを、営業部長として自分の言葉で説明できるレベルまで整理していきます。
新人はよく、
- 「もっと頭を使う仕事がしたいです」
- 「マーケや企画の方が、自分のやりたいことに近い気がします」
と言います。
しかし、冷静にビジネスの構造を見ていくと、
「営業で成果を出せる人」ほど、その後のキャリアの選択肢が広がりやすいのも事実です。
3-1. ビジネスは「価値を売ること」からしか始まらない
どんな会社でも、究極的には
「お客さまに価値を届け、その対価としてお金をいただく」
ことでしか、事業は成り立ちません。
- どれだけ良いプロダクトを作っても
- どれだけ洗練されたマーケ戦略を描いても
「お客さまが買う」という行為が起きなければ、ビジネスは動きません。
そして、この「価値を売る」という最前線を担っているのが営業です。
言い換えると、
- 誰に(どんなお客さまに)
- どんな価値を
- どのようなプロセスで届けると
- 実際にお金を払っていただけるのか
を、もっとも生々しく知っているのが営業なのです。
この感覚を若いうちに体で理解しているかどうかで、その後どの職種に行っても、
- 机上の空論に陥るか
- 「売れる絵」を描ける人になるか
が、大きく変わってきます。
3-2. 営業で鍛えられる「どこでも通用する3つの力」
新人が「泥臭いだけ」と感じがちな営業ですが、実際にはどの職種でも一生使える3つの力が鍛えられます。
① 顧客理解と課題発見力
毎日お客さまと会話し、断られたり、相談されたりする中で、
- お客さまが本当に困っていることは何か
- 口には出さないけれど、心の中で引っかかっているポイントはどこか
- なぜ今は動けないのか、その背景にどんな制約があるのか
といった「本当の課題」を見抜く力が磨かれていきます。
これは将来、
- マーケティングでペルソナ設計をするとき
- 企画職として新サービスを考えるとき
- 経営企画として事業戦略を作るとき
など、どの場面でも必ず必要になる「現場感のある顧客理解」です。
② 数字で語る力・KPI感覚
営業は、良くも悪くも数字から逃げられません。
- 受注件数・売上
- 単価・粗利
- 商談数・受注率
といった数字を追いかける中で、
- 「どの数字を改善すれば、結果が一番変わるのか」
- 「プロセスのどこにボトルネックがあるのか」
を考える習慣が身につきます。
これはいわば、「ミニ経営者」の感覚です。
この感覚を若いうちに持てていると、
将来どんなポジションにいても、
- 感覚論ではなく数字とセットで話せる
- 打ち手とKPIを紐づけて考えられる
「話が分かる人材」として扱われやすくなります。
③ 社内外を巻き込む調整力・交渉力
営業の現場では、常に「間」に立ちます。
- お客さまの要望と、自社の制約の間
- 営業の現場感と、開発・製造の事情の間
- 顧客の希望納期と、自社のリソースの間
この「間」をどう折り合わせるかを学ぶのが営業です。
- お客さまと自社の両方が納得できる落としどころを探す
- 社内の関係部署に協力してもらうための頼み方を工夫する
こうした経験は、そのまま
- プロジェクトマネジメント
- 部門横断の調整
- 社内政治を含めた交渉
など、組織の中で成果を出すための基礎体力になります。
3-3. 「マーケ・企画に行きたい新人」ほど、最初に営業をやっておいた方がいい理由
営業を嫌がる新人ほど、口をそろえてこう言います。
「本当はマーケや企画の仕事がしたいんです」
ここで営業部長として伝えてあげたいのは、
「だからこそ、最初に営業で力をつけておいた方が、あとでマーケや企画に行ったときに圧倒的に有利になる」
という視点です。
- 現場のお客さまのリアルな声を知っているマーケター
- 説明資料ではなく「売れるストーリー」が描ける企画担当
- 営業の苦労も理解したうえで施策を打てる事業企画
こうした人材は、どの会社でも重宝されます。
逆に、営業現場を知らないままマーケや企画に行くと、
- きれいな資料は作れるけれど、現場では動かない
- 「机上のアイデア」を振り回して終わってしまう
というパターンに陥りがちです。
だからこそ、
「将来マーケに行きたいなら、最初の2〜3年は営業で“お客さまの現場”と“数字の現実”を知っておくと、後で本当に強いよ」
と伝えてあげることが重要です。
3-4. 営業で成果を出せる人は、キャリアの選択肢が一気に増える
社内の人事の目線で見ると、
「営業でちゃんと売れている人」
は、それだけで評価が上がりやすくなります。
なぜなら、
- 数字で成果が見えやすい
- 顧客や現場の情報が集まってくる
- プロジェクトを任せたときの再現性が期待できる
といった理由から、「任せたときに安心できる人材」として見られるからです。
結果として、
- 重要顧客を任される
- 新規事業や商品企画のプロジェクトメンバーに選ばれる
- 海外拠点・新拠点の立ち上げメンバーに声がかかる
など、チャンスの数そのものが増えていきます。
一方で、営業を早々に「自分には合わない」と決めつけてしまうと、
- 成果として評価される実績が残らない
- 「とりあえずそこそこの人」という扱いに落ち着く
という状況になりがちです。
本人は「もっと頭を使う仕事をしたい」と思っていても、
周囲から見ると「任せる材料が足りない人」になってしまうのです。
3-5. 「泥臭さ」と「頭を使う仕事」がつながったとき、モチベーションは跳ね上がる
ここまで見てきたように、
- 顧客理解・課題発見
- 数字で語る力
- 巻き込み・交渉力
といった、ビジネスの基礎体力は、営業でこそもっとも効率よく鍛えられます。
新人が嫌がる「泥臭い活動」は、裏を返せば
「現場で仮説検証を回しながら、ビジネスの筋力を鍛えるトレーニング」
とも言えます。
大事なのは、営業部長であるあなた自身が、
- 営業で成果を出すことが、なぜ成長の近道なのか
- その経験が、将来どんなキャリアの武器になるのか
を、自分の言葉で整理できていることです。
そして次のステップとしては、
この構造的な話を、そのまま新人にぶつけるのではなく、相手の言葉に翻訳して伝えることが重要になります。
次の章では、
「営業を嫌がる新人に、どう伝えれば腹落ちするのか」
というテーマで、営業部長としてのスタンス設計と、伝え方のポイントを整理していきます。
4. 営業部長としてのスタンス設計:「やらせる」から「納得して挑戦させる」へ
ここまで見てきたように、営業はビジネスパーソンとして成長する上での「近道」になり得ます。
しかし、その事実が新人のモチベーションにつながるかどうかは、営業部長であるあなたのスタンスに大きく左右されます。
- 「配属だから、まずは3年頑張れ」
- 「とにかく数字を追え。話はそれからだ」
というスタンスのままだと、新人の頭の中では、
「自分の成長」<「会社の都合・部門の数字」
としか見えず、「やらされ感」が強まります。
ここからは、営業部長として押さえておきたい3つのスタンスを整理します。
4-1. まず上司が言語化する:「うちの営業の意味・役割は何なのか」
最初のポイントは、営業部長であるあなた自身が、
「うちの会社における営業という仕事の意味・役割」
を、自分の言葉で語れるようにしておくことです。
たとえば、次のようなレベル感です。
- 「わが社の営業は、単に商品を売るだけではなく、
“お客さまの業務プロセスに入り込んで、一緒に改善していく役割”なんだ」 - 「営業は、社内で唯一“お客さまの現場の声”を直接集めてこられるポジション。
だから、商品企画やマーケにとっても、なくてはならない情報源なんだ」
こうした言葉がないまま、
- 「とにかく訪問数を増やせ」
- 「数字がすべてだ」
とだけ伝えると、新人は「自分は単なる売上要員なんだ」と受け取ってしまいます。
おすすめは、配属から最初の1〜2回目の1on1のタイミングで、次の3点を必ず話すと決めておくことです。
- 「うちの営業が他社と違う点・大事にしているスタンス」
- 「この会社全体の中で、営業が担っている役割」
- 「なぜあなたに営業を経験してほしいと思っているのか(部長としての本音)」
ここで「3」を曖昧にせず、たとえばこう言い切ります。
「将来、もしマーケや企画に行きたいなら、
今ここで“お客さまの現場”と“数字の現実”を知っておいた方が、圧倒的に強くなるんだ」「だからこそ、あえて今は営業を任せている。
部としても、あなたを“ただの人数合わせ”で配属しているつもりはないよ」
この一言があるかどうかで、新人の受け止め方は大きく変わります。
4-2. 売上目標だけで管理しない。「成長目標」をセットにする
2つ目のポイントは、
「売上・件数などの“結果目標”だけで新人を見ない」
というスタンスです。
配属半年〜1年目の新人にとっては、
- 売上
- 受注件数
- 粗利
といった数字は、どうしても自分だけではコントロールしづらい部分もあります。
ここだけを目標にしてしまうと、
「頑張っても頑張らなくても、結果があまり変わらない」
「どうせ自分ではコントロールできない」
という、無力感と他責思考が強くなってしまいます。
そこで有効なのが、「結果目標」とセットで「成長目標」を置くことです。
成長目標の例:
- 「月末までに、●●業界のA社〜C社の業務プロセスをヒアリングし、自分なりの“共通の課題仮説”をまとめる」
- 「今月は、商談後の振り返りメモを、毎回“良かった点・次に試すこと”の2つセットで書く」
- 「1社でいいので、“この会社のことは誰よりも語れる”と言えるキーカスタマーをつくる」
こうした成長目標を、
- 部長と一緒に言語化する
- 月1回の1on1で振り返る
ことで、新人は
「結果が全てではない。プロセスの中で自分が成長している実感がある」
と感じやすくなります。
営業部長としては、面談の際にこんな言葉を添えると効果的です。
「もちろん数字も大事だけど、今期のあなたについては、
“この成長目標がどこまでできたか”をちゃんと見ているからね」
4-3. フィードバックを“結果批評”ではなく“仮説検証の対話”に変える
3つ目のポイントは、フィードバックの質を変えることです。
ありがちなNGパターンは、
- 「なんで取れなかったの?」
- 「もっと提案量を増やさないと」
- 「この価格で決めてこないとダメだよ」
といった、結果に対する“評論コメント”だけで終わるフィードバックです。
新人からすると、
- 「怒られている」
- 「責められている」
としか感じられず、モチベーションは下がる一方です。
ここで営業部長として意識したいのは、フィードバックを
「上司からの評価時間」ではなく「一緒に仮説検証する時間」
に変えることです。
具体的には、質問の順番を変えます。
NGな聞き方
- 「どうして取れなかったと思う?」
- 「もっとできたよね?」
望ましい聞き方
- 「まず、今回あなたがやったことを時系列で教えてもらえる?」
- 「その時点で、どんな狙いや仮説を持って動いていた?」
- 「やってみて、どこまではうまくいって、どこからうまくいかなかった?」
- 「次に同じような案件があったら、どこを変えてみたい?」
この流れで話を聞いたうえで、部長からこう伝えます。
「今回のやり方はここまでは良かった。
次はこの部分の仮説を変えて、こういう聞き方を試してみようか」「失注は残念だけど、“次の一手が見えている失注”は、ちゃんと価値があるよ」
新人は、
- 「怒られている」のではなく「一緒に考えてもらっている」
- 「自分の試行錯誤が、ちゃんと認められている」
と感じられるようになります。
4-4. 「やらせる」から「納得して挑戦させる」への小さなシフト
ここまでの3つのスタンスをまとめると、
- 営業の意味・役割を、部長自身の言葉で語る
- 売上だけでなく、成長目標をセットで置く
- 結果批評ではなく、仮説検証の対話としてフィードバックする
ということになります。
これらはすべて、
- 「とにかくやれ」
- 「数字がすべてだ」
という“やらせるマネジメント”から、
- 「なぜ営業なのか」
- 「ここでどんな力が身につくのか」
- 「どう試行錯誤していくのか」
を一緒に考える“納得して挑戦させるマネジメント”へのシフトです。
このスタンスの変化だけで、新人の口から出てくる言葉は、少しずつ変わっていきます。
- 「営業は自分の仕事じゃないと思います」
↓
- 「まだ営業が自分に合っているかは分からないけれど、
今の経験が将来のためになるなら、もう少しちゃんと向き合ってみたいです」
この変化を引き出せるかどうかが、営業部長としての腕の見せどころです。
次の章では、こうしたスタンスを前提に、
「営業を嫌がる新人のモチベーションを具体的に上げていく、3つの実践ステップ」
を、より行動レベルに落として整理していきます。
5. 営業を嫌がる新人のモチベーションを上げる3つの実践ステップ
ここからは、営業部長であるあなたが、
明日から新人との関わり方を少し変えるだけで実践できるステップに落としていきます。
ポイントは、
「新人の性格を変える」のではなく、
「関わり方と“場の設計”を変える」
ことです。
5-1. ステップ1:最初の1on1で伝えるべき「3つのメッセージ」
配属から半年〜1年のタイミングで、新人が
「営業は自分のやりたいことではない」
「できればマーケや企画に行きたい」
と言い出したとき、最初の1on1で何を伝えるかが分かれ目です。
ここでは、最低限この3つだけは伝える、と決めておくと効果的です。
メッセージ① 「あなたを“ただの人数合わせ”で配属したわけではない」
まずは、本人の存在意義をしっかり伝えます。
「まず最初に伝えたいのは、
君を“穴埋め要員”として営業に置いているつもりはない、ということなんだ。」「将来どんなキャリアを選ぶにしても、
“自分で価値を伝えて、お客さまに選んでもらう経験”をしておくことが、
一番の土台になると思っている。だから営業を任せている。」
この「わざわざ営業に置いている理由」を、部長の言葉で伝えることが重要です。
メッセージ② 「今の営業経験が、将来のキャリアの“土台”になる」
次に、新人が気にしている「将来につながるのか問題」に正面から答えます。
「もし将来、マーケや企画に行きたいなら、
今の営業経験は“遠回り”ではなく“近道”になると思っている。」「現場のお客さまを知らずにマーケや企画をやると、
どうしても机上の空論になりやすい。
でも営業を経験していると、“売れる絵”が描ける人になれる。」
この「遠回りではなく、実は近道なんだ」という解釈を、はっきりと言葉にします。
メッセージ③ 「数字だけで評価しない。成長目標も一緒に見る」
最後に、不安になりがちな「評価軸」を明確にします。
「もちろん数字も大事だけれど、
君に関しては“どこまで成長しようとしたか”もセットで見ている。」「だから、一緒に“今期の成長目標”を決めよう。
それがちゃんとできているなら、結果がすぐに出なくても評価する。」
こう言い切ることで、新人は
「とにかく売れと言われているわけではない」
と感じ、視野が少し広がります。
5-2. ステップ2:小さな成功体験を設計する(担当顧客・役割の与え方)
次のステップは、「勝てる場面」を意図的につくることです。
モチベーションは、結局のところ
「やってみた → できた → もう少しやってみよう」
というサイクルからしか生まれません。
そのために、営業部長としてできる工夫を3つ挙げます。
① 「全部任せる」のではなく、「一部を任せて褒める」
いきなり案件を丸ごと任せるのではなく、
- アポ取得だけ
- 初回訪問まで
- 既存顧客のフォローコールだけ
など、プロセスの一部分を任せる設計にします。
そして、その一部でもうまくいったら、はっきり言語化して評価します。
「今日のヒアリングの仕方、先週よりも格段に良くなっていたよ。」
「あの質問の仕方は、お客さまの本音を引き出せていた。」
新人は「何が良かったのか」が分かることで、再現しようという意欲が湧きます。
② 「この1社は、君が一番詳しい人になろう」と絞り込む
担当を広く持たせすぎると、どの顧客も中途半端に終わりがちです。
そこで、
「まずはこの1社だけ、君が“社内で一番詳しい人”になろう」
と、絞り込んだミッションを与えます。
- その会社の事業構造
- キーパーソンの考え方
- 過去の取引履歴
- 今後の投資方針
などを一緒に整理し、「この会社への提案は、まず君に相談したい」と言える状態を目指します。
1社でも「任されている感覚」が出てくると、新人の表情は目に見えて変わっていきます。
③ 「達成可能なKPI」を一緒に決める
売上や受注件数ではなく、より手元のKPIで
- 「今月は●●業界の新規アポイントを5件」
- 「既存顧客への課題ヒアリングを15件」
など、新人が自分の努力で動かしやすい指標を、一緒に決めます。
そのうえで、達成したらきちんと承認します。
「数字としてはまだ途中だけれど、
今月決めた行動KPIは全部やりきったよね。これは胸を張っていい。」
この積み重ねが、やる気の「土台」になります。
5-3. ステップ3:失敗したときに“やる気を削らない”声かけと振り返りの型
どうしても避けられないのが、
- 大きな案件の失注
- 失礼な断られ方
- 社内からのプレッシャー
など、「心が折れそうになる経験」です。
このタイミングでの上司の一言が、
新人の営業人生を左右すると言っても言い過ぎではありません。
ここでは、簡単に使える振り返りの型をひとつ紹介します。
「事実 → 解釈 → 学び → 次の一手」の4ステップ
1on1で失敗案件を振り返るときは、次の順番で質問します。
① 事実を整理する
「今回の案件、最初の接点から失注まで、どんな流れだったか教えてもらえる?」
感情や自己評価に入る前に、まずは事実ベースで棚卸しします。
② 本人の解釈を聞く
「そのとき、自分ではどこがうまくいったと思う?」
「逆に、どこからうまくいかなくなった感じがした?」
ここで「全部ダメでした」で終わらせず、
部分的にでも「うまくいったところ」を言語化させます。
③ 学びを一緒に言語化する
「じゃあ今回の件から、“今後に活かせそうなポイント”を3つ挙げるとしたら?」
新人が出してきたポイントに対して、部長が補足します。
「いいね。そこはそのまま伸ばしていこう。
それに加えて、部長目線ではもう1つ、こういう学びもあると思う。」
④ 次の一手までセットで決める
「次に似たような案件が来たら、どこを変してみようか?」
「具体的には、どんな質問・どんな提案の順番にしてみる?」
ここまで決めて、最後に一言、ラベリングします。
「今回の失注は、正直痛いけれど、
ここまで言語化できて“次の一手”まで決まっているなら、
これは“次につながる失敗”だよ。」
この一言があるかどうかで、
新人の頭の中で
- 「失敗=怒られるだけの出来事」
から
- 「失敗=次に活かせる材料」
へと意味づけが変わっていきます。
5-4. 「モチベーションを上げる」のではなく「モチベーションが上がる状態を設計する」
ここまでの3ステップをまとめると、
- 最初の1on1で、意味と期待と評価軸を“明確な言葉”で伝える
- 小さな成功体験を意図的に設計し、“任されている感覚”と“できた実感”をつくる
- 失敗時には、責めるのではなく“一緒に仮説検証”し、次の一手まで落とし込む
という流れになります。
大事なのは、
「新人のモチベーションを無理やり上げよう」
とするのではなく、
「モチベーションが自然と上がっていく“環境と関わり方”を設計する」
という発想に切り替えることです。
こうした関わり方を続けていると、
半年後、1年後の新人の口からは、こんな言葉が出てくるようになります。
「最初は営業をやりたくなかったんですが、
今は、“ここで力をつけることが将来の自分のためになる”と感じています。」
次の章では、こうした考え方を踏まえたうえで、
「明日の1on1で、そのまま使える一言メッセージ」
をいくつか用意しておきます。
6. まとめ:明日の1on1でそのまま使える「一言メッセージ」
ここまで、
- 新人がなぜ営業を嫌がるのか
- それでも営業で成果を出すことが成長の近道になる理由
- 営業部長として、どんなスタンスと関わり方を取ればよいか
を整理してきました。
最後に、全体のポイント整理と、
明日の1on1でそのまま使える一言メッセージをまとめておきます。
6-1. 記事全体のポイント整理
改めて、押さえておきたいポイントは次の5つです。
- 新人は「楽して成果を出したい」だけではなく、「コスパよく成長したい」と考えている
泥臭いことを避けたい気持ちの裏側には、「将来につながる実感が欲しい」という不安と焦りがあります。 - 営業を嫌がる背景には、時代のキャリア観と説明不足がある
営業=きつい・古い・泥臭い、という先入観。
マーケ・企画=かっこいい・頭を使う仕事、というイメージ。
そこに「営業の意味」「キャリアとのつながり」の説明不足が重なっています。 - それでも営業は、ビジネスパーソンとしての「基礎体力」を最速で鍛えられる場である
顧客理解・課題発見力、数字で語る力・KPI感覚、社内外を巻き込む調整力・交渉力。
どの職種に行っても一生使える筋力が、最も密度高く鍛えられます。 - 営業部長のスタンスが、「やらされ感」か「納得して挑戦」かを分ける
営業の意味・役割を、自分の言葉で語る。
売上だけでなく「成長目標」も一緒に見る。
フィードバックを「結果批評」ではなく「仮説検証の対話」にする。 - モチベーションは“上げる”ものではなく、“上がる状態を設計する”もの
小さな成功体験を意図的に設計する。
失敗を「怒られる出来事」から「次につながる材料」に変えてあげる。
「任されている感覚」と「成長実感」をセットでつくる。
6-2. 明日の1on1でそのまま使える「一言メッセージ」集
最後に、新人との1on1でそのまま口に出せるフレーズをいくつか用意しておきます。
記事の内容を全部説明しなくても、この一言で本質が伝わるように意識しています。
パターン① 「営業は遠回りじゃなくて、いちばんの近道だ」
「将来どんな仕事をするにしても、
“自分で価値を伝えて、お客さまに選んでもらう経験”をしておくことが、
いちばんの近道なんだよ。
だからこそ、今あえて営業を任せているんだ。」
パターン② 「営業をやっておくと、マーケ・企画に行ったときに圧倒的に有利になる」
「もし将来マーケや企画に行きたいなら、
営業の経験がある人とない人では、スタートラインが全然違う。
現場のお客さまを知っている人の方が、
“机上のアイデア”じゃなくて“売れる絵”を描けるからね。」
パターン③ 「泥臭いことは、“将来の自分への投資”に変えられる」
「今やっているテレアポや訪問は、
単なる“数打ち”じゃなくて、“仮説検証のトレーニング”なんだ。
だから、やらされ仕事にするか、将来の自分への投資にするかは、
君と一緒に決めていきたいと思っている。」
パターン④ 「君を穴埋めで配属したつもりは、1ミリもない」
「これはちゃんと伝えておきたいんだけど、
君を“人数合わせ”で営業に置いているつもりは、1ミリもない。
将来どんな道に進むにしても、ここでの経験が土台になると本気で思っているからこそ、
営業を任せているんだ。」
パターン⑤ 「数字だけじゃなく、“どう成長しようとしたか”も一緒に見る」
「もちろん数字も大事だけど、
君のことは“どれだけ成長しようとしたか”もセットで見ていくつもりだよ。
だから、一緒に“今期の成長目標”を決めよう。」
6-3. 最後に:営業部長だからこそできる「新人のキャリアの土台づくり」
新人が「営業は嫌だ」「マーケや企画に行きたい」と言い出したとき、
営業部長としては、どうしても部門の事情や数字が頭をよぎります。
ただ、その瞬間にこそ、
「この1〜2年の経験が、彼/彼女の10年後のキャリアの土台になる」
という視点を持てるかどうかが問われているのだと思います。
- 営業の意味を、上司自身の言葉で語ること
- 泥臭い活動の中にある「頭を使う要素」を一緒に見つけていくこと
- 失敗した新人を、評価ではなく「次の一手」で支えること
これらはすべて、営業部長にしかできないマネジメントです。
この記事で整理した考え方やフレーズが、
明日の1on1で新人の目の色を少し変えるきっかけになればうれしいです。
貴社の営業組織でも同じような課題を感じている場合は、現場の実態に合わせた「営業組織改革」や「営業人材育成」の具体的なアプローチをご提案しています。
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