視座と視野——「高く見る」だけでは届かない、もうひとつの力

先日、ある企業の管理職研修でのことです。

休憩時間に、一人のマネージャーの方がぽつりとこうおっしゃったんです。

「うちのメンバー、目の前のことしか見えてないんですよね。
もっと視座を上げてほしいんですけど、どう伝えたらいいか分からなくて」

その言葉を聞いたとき、ああ、この悩みは本当にたくさんの現場で繰り返されているんだな、
と改めて感じました。

「視座が低い」「もっと経営の目線を持ってほしい」
マネジメント層の方々からこうしたお話を伺う機会は、本当に多いんです。

でも、そのたびに私が思うことがあります。

「視座を上げる」って、実はそれだけでは足りないのかもしれない、ということなんです。


目次

「高く見る」ことで、見えなくなるもの

視座という言葉は、よく「どの高さから物事を見るか」という意味で使われますよね。

経営層と同じ目線に立てば、会社全体の方向性が見えてくる。それ自体は間違いないと思います。

ただ、現場で起きていることを見ていると、「高さ」だけを追い求めた結果、
ちょっと困ったことが起きているケースもあるように感じるんです。

たとえば、経営視点を意識するあまり、現場の小さな変化
(お客さまの表情がちょっと曇った瞬間とか、メンバーが会議で言いかけてやめた一言とか)
そういう「足元のサイン」を拾えなくなってしまう。

高い場所からは、遠くの景色はよく見えます。

でも、足元の花は見えなくなるんですよね。

これは能力の問題ではなくて、「高さ」という一つの軸だけで物事を見ようとしたときに、
どうしても起きてしまう構造的な限界なんじゃないかと思っています。


もうひとつの軸——「視野」という水平の力

ここで大事になってくるのが、「視野」というもうひとつの軸ではないでしょうか。

視座が「どの高さから見るか」という垂直の概念だとしたら、
視野は「どれだけ幅広く見渡せるか」という水平の概念なんです。

たとえば、視座がどんなに高くても、視野が狭いままだと、
自分の部門の論理だけで判断してしまうことがあります。
「うちの部署としてはこれが正しい」

その主張は間違っていないかもしれないけれど、隣の部門から見るとまったく違う景色が広がっている。
こういうすれ違いは、組織の中で本当によく起きているなと感じます。

一方で、視野が広くても視座が低いままだと、情報が多すぎて何を優先していいか分からなくなる。
あれも大事、これも大事、と思っているうちに、結局どこにもたどり着けない。

そんな状態に陥ってしまうこともあるんですよね。

つまり、視座と視野は片方だけでは機能しにくくて、
「セットで動かす」ことに意味があるのかもしれない、
と私は考えるようになりました。


ドローンのように「上げ下げ」する感覚

この2つの軸をうまく使い分けている方に出会うと、いつも「すごいな」と感じることがあります。

そういう方は、まるでドローンを操縦するように、視点の高さを自在に変えているんです。

会議では、ぐっと上空に上がって全体の方向性を俯瞰する。
「今、会社として一番大事なことは何か」
という問いを、しっかりと持っている。

でもその直後に、スッと高度を下げて現場に降りてくる。
メンバーの表情を見て、「何か引っかかってる?」とそっと声をかける。

この「往復運動」ができる方は、不思議と周囲からの信頼がとても厚いように感じます。

なぜかというと、上から正解を押しつけるのではなく、
「一緒にこの高さから見てみようか」
と手を差し伸べてくれる感覚があるからなんじゃないかと思うんです。


実は「上げろ」ではなく「一緒に見よう」なのかもしれない

冒頭のマネージャーの方に、研修のあと少しお話をさせていただいたんです。

「メンバーに”視座を上げろ”と言いたくなるお気持ちはすごくよく分かります。
でも、もしかしたら
「一緒にここから見てみない?」
と声をかけることで、変わるものがあるかもしれません」

そうお伝えしたら、その方はしばらく黙ったあとに、
「確かに、上げろって言ってるだけだったかもしれないですね」と、
少し笑いながらおっしゃいました。

視座を上げること自体は、もちろん大切なことだと思います。

でも、「上げなさい」と指示するのと、「ここから見たらこんな景色が見えるよ」と一緒に体験するのでは、
受け取る側の気持ちがまるで違うのではないでしょうか。

人は、誰かに「引っ張り上げられた」ときよりも、自分で「あ、こういうことか」と気づいたときの方が、
ずっと遠くまで歩いていけるように思うんです。


小さな「往復」から始めてみませんか

もし今、「メンバーの視座を上げたい」と思っていらっしゃるなら、
こんな小さな一歩から試してみるのはいかがでしょうか。

次の1on1で、まず「最近、現場で気になっていることある?」と聞いてみる。
そのあとに、「それって、会社全体の流れで見るとこういう意味があると思うんだよね」とそっとつなげてみる。

これだけで、メンバーの中に「自分の仕事と全体がつながっている」という感覚が少しずつ生まれるかもしれません。

そして、その対話を繰り返していくうちに、マネージャーご自身の中にも、
「ああ、現場のこの声と、経営が見ている景色は、こうやってつながっているんだな」
という新しい発見が生まれるように感じるんです。

視座と視野の「往復運動」は、一人で完結するものではなくて、
誰かと一緒にやるからこそ、深まっていくものなのかもしれません。


今日すぐにできることがあるとしたら、ほんの少しだけ「見る高さ」を変えてみることかもしれません。

いつもの会議で、いつもの席から、ちょっとだけ違う角度で場を見渡してみる。
あるいは、メンバーと話すときに「この人には今、どんな景色が見えているんだろう」と想像してみる。

大きな変化は、そんな小さな問いかけから始まることが多いのかな、と感じています。

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